外国為替市場にトレンドが生まれる仕組み
外国為替市場では、様々な理由もあって、なかなかトレンドが発生しにくいことは前回述べましたが、短期的に、何かがきっかけとなって相場が急変することはよくあります。
長期的に見れば、為替相場はファンダメンタルズの影響に左右されるのですが、短期的な急変が起こるような場合、裏では一体、どのようなことが起こっているのでしょうか。
FX初心者の人は、何故、どうやって為替相場にトレンドが生まれるのかが不思議化もしれません。
相場が急変する要因には、大きく分けて二つある、と考えられます。
目次
突発的なニュースや要人発言
一つは、テロや戦争、あるいは金融政策に関する各国要人の発言などです。
テロや戦争のニュースは、その国の経済にとって大きなリスクとなりえるため、突発的にそういったニュースが飛び込んでくると、相場が混乱することがあります。
また、政策金利などの重大な案件について、各国の要人が言葉を発すると、そこから生まれた憶測が、一気に相場のコンセンサスを形成するケースも少なくありません。
ちなみに2001年9月11日に米国で発生したアメリカ同時多発テロ事件の際は、外国為替市場も一時混乱しましたが、テロによるアメリカ経済に与える影響が軽微だと判断されたのか、1月も経たずに、落ち着きを取り戻しています。
巨大ヘッジファンドのストップロスハンティングに要注意
FX初心者が、一番注意を払っておかなければならない存在であり、相場を急変させるもっとも大きな要因は、巨大ヘッジファンドなどの、大量の資金を有する投資機関の存在です。
前回、大口の投資ファンドと言えども、簡単に為替市場を誘導してトレンドを発生させることはできない、と説明しました。
が、ある条件が揃うと、彼らでも為替市場に介入して、相場をコントロールすることがある程度可能になります。
ある条件とは、例えば、逆指値が溜まっているチャートポイントがわかっている場合や、偶然にも複数の投資機関の介入が重なった時などです。
大口の投資機関はオプション取引でリスクヘッジ
まず、インターバンク市場のシステムから説明すると、銀行間取引(インターバンク市場)は、個人投資家とFX業者との相対取引とは違い、取引所取引と呼ばれるシステムで売買が行われます。
相対取引と取引所取引の違いを簡単に説明すると、取引所取引の場合、例えば、買いたい人と売りたい人が巡り合って、始めて取引が成立します。
例えば、ドルを一億ドル「ドル円レート100円買いたい」とあなたが思っても、「そんな安いレートでは売れない」などと言った理由で、売ってくれる人が市場に1人も存在しなければ、注文は成立しません。
しかし相対取引は1対1での取引(個人投資家とFX業者)であり、FX業者は顧客である私たち個人投資家の買いや売り注文は、スリッページを容認すれば、約定拒否されることはほとんどありません(1億ドルはFX業者のシステム的に無理ですが)。
つまり、私たちは、多少のスリッページはあるものの、新規注文や決済注文がFX業者によって必ず実行されることを当たり前のことだと思っている節がありますが、当然、取引所取引である銀行間取引では、注文が必ずしも執行されるとは限りません。
特にストップロス注文がないのは、大きなリスクと言えます。
そのため、大口の投資機関などは、損切り注文の代わりにオプション取引というシステムを利用してリスクヘッジを行います。
例えば、110円でドル円を一億ドル買って、100円でロスカットしたい場合は、100円でドルを一億ドル売る権利(プット・オプション)を事前に購入しておくわけです(買う権利はコール・オプションと呼ぶ)。
オプション取引についての詳細は、ここでは省略するとして、とにかく、ほとんどの人は、取引の際、ストップロス注文(投資機関はオプション取引で代用)を用意しているものですから、為替チャートの至るところに、個人投資家や大口の投資家のストップロス注文が点在することになります。
もし、現在のドル円のレートが100,30円で、100,00円付近に多くのストップロス注文が固まって発注することが予想、あるいは確実な情報として知ることができた場合。
豊富な資金を持つ巨大ヘッジファンドなどは、その資金力にものをいわせ、ドル売り円買い介入を行います。
勿論、前述したように、如何に巨大ヘッジファンドと言えども、大きく為替相場を動かすことはできません。
ただし、30銭程度だったら、相場状況におっては、おそらく可能でしょう。
そして30銭だけ相場を下に動かすことができれば、100円の位置には、大量のストップロス注文、つまりドル売り決済注文が並んでいるわけですから、後は勝手にドル円は急落していってくれるので、十分、下がった後に、買い戻せば、ヘッジファンドは巨額の利益を得ることが可能になります。
ヘッジファンドなどが行う、こういったトレード手法のことをストップロスハンティングと呼びますが、これは例えば103円や101円などでドル円を購入した場合、大体切りのいい100円やあるいはその前後50銭のところにストップロスをいれやすいという人間心理をついたものです。
勿論、ストップロス狩りを行うためには、ストップロス注文が集中しているポイントを見抜く必要があるので、そうやすやすと行うことはできないはずですが、もし仮に「投資銀行数社がプット・オプションを100,00においている」などといった情報が、手に入ったとしたら?
そういった情報が入手可能なのかどうかは、想像の範囲を出ませんが、とにかく、100.00とか103.50とか、きりのいい数字付近には多くのストップロス注文が並んでいるもので、時と場合によっては、ストップロス狩りを仕掛けてくる場合があり、しかもそれが複数のファンドであった場合、その相場を動かす力は計り知れないものがあります。
大手の投資機関次第で相場は動く?
ストップロス狩りは、うまくいかなければ、大損をすることになりかねないので、そうそう仕掛けてはこないのですが、前述したように、確実な情報が手に入ったなど時など以外でも、時と場合によって、起こる場合があります。
例えば、気まぐれ。
以前読んだFX本では、投資銀行のたった一人のディーラの気まぐれで、介入を行った某投資銀行の話が載っていました。
この気まぐれに端を発し、いろいろな投資銀行間で心理戦が行われた結果、ドル円は(特に材料がないにもかかわらず)1日の間にすさまじい乱高下をすることになりました。
稀にですが、こういったケースもあるようです。
あるいは、前述したような、突発的なニュース等に、乗っかってくる場合もあります。
例えば、先ほど述べたアメリカ同時多発テロ事件の際は、一時ドル円は急落しましたが、1月も経たずにもとの値位置に戻ったと書きましたが、これなんかは、急落から、値位置を戻すまでの期間などを見れば、混乱に乗じて、大手ヘッジファンドなどが介入していた可能性はおおいに考えられます。
一番やっかいなのは手負いの虎
そして、個人投資家にとってやっかいなのは「手負いの虎」と呼ばれる大口の投資家の存在。
手負いの虎とは、もう既にかなりの損失を出してしまっている大手投資機関のことです。
損失を出した場合、彼らがとるべき選択肢は、個人投資家同様に、含み損に耐える、諦めてぶん投げる、あるいはドテンを行う、の3択なのですが、彼らの中には、出してしまった損失をできるだけ少なくするため、あるいは大逆転を狙って、時に死にもの狂いでストップロスハンティングを狙って、為替市場を混乱に陥れてくる場合があります。
勿論、そういった試みは大抵うまくいかず、多くの場合、個人投資家同様、無理なトレードにより、破滅への道を早めるだけで終わるのですが、彼らはある意味、投資の世界でのみ生きることを許された連中でもあるため、時にリスクを承知でそういったことをを行ってくる傾向にあります。
例えば、サブプライムローンショックの余波を受け、2007年8月にドル円は大暴落しましたが、その過程で多くの大口の投資機関が損失を追い、破産に追い込まれました。
中でも世界を震撼させたのは、それまで米国第4位の規模で、格付けは最高のAAA(トリプルエー)、いわば世界経済の中枢とも言える存在だった巨大投資銀行リーマン・ブラザーズが2008年9月15日をもって倒産したことです。
リーマン・ブラザーズほどの巨大投資銀行ですら、リスク管理を損なえば、そういった結果になるということは、私たち個人投資家は、しっかりと頭に入れておかなければなりませんが、それ以上に興味深いのは、実際に為替相場が更なる大暴落を始めたのはリーマン・ブラザーズの倒産から約一か月後の10月20日だったことです(ポンド円などは20円の急落)。
何故、この日に大暴落が起こったのかはわかりませんが、おそらく市場のセンチメントが、極めてリスク回避に傾いていることから、チャンスを狙っていた複数のヘッジファンドなどの思惑が重なり、複数のヘッジファンドらによる大規模な介入が行われたから、と見るのが妥当なのではないでしょうか。
大暴落が始まったその瞬間、私はFX業者の5分足チャートを見ていましたが、そのFX業者のシステムが一時フリーズするほどの急降下、急上昇が繰り返し起こっていたことを今でも覚えています。
あの時、一直線にドル円が急降下しなかった理由は、ドルの下落を阻止したい側の投資ファンド等の買い支えがあったためでしょうが、しばらく続いた巨大な資金を持つもの同士の激しい戦いは、非常に見ごたえがあったものです。
結果として、買い支えは成功せず、ドルは大暴落へとつながり、その後、多くの投資銀行が相次いで倒産しました(おそらく買い支えを行っていた側でしょう)。
このように、外国為替市場には、巨大なモンスターが多数存在し、彼らの戦いによって(あるいは共闘)によって、為替市場が乱高下したり、時にコントロールされることもありうる、ということは、個人投資家の私たちも知っておかなくてはなりません。
勿論、個人投資家は、相対取引というシステムでFX業者に守られているので、逆指値(ストップロス注文)さえ、しっかり入れておけば、相場の乱高下を恐れる必要はあまりないのですが、短期的なトレンドが彼らの思惑次第で生まれることは、少なくありません。
そういった事情も頭に入れておかないと、想定外の損失を被ることになりかねないので要注意です。