クロス円が上昇ゆっくりで下降が急激な理由
FXを始めて、過去の為替のチャートをみてみると、特にドル円やクロス円通貨のチャートは、上昇するときはじわじわとゆっくりと上昇し、落ちるときはストンと一気に下落することが多いことに気づきます。
これは特にFXに限ったことではなく、株取引やその他の金融商品でも、同じことが言えます。
リスク選好とリスク回避
上記の現象を理解するには、まず二つのキーワード「リスク選好」と「リスク回避」について考える必要があります。
リスク選好とは、言うまでもなく、市場参加者の心理が強気になっている、つまり「ハイリスク・ハイリターンを狙うぜ!」という心理に傾いている状態のことです。
リスク回避は、逆に、皆ができるだけリスクを避け、慎重なトレードを行おうと考えている状態のことで、他の投資商品同様に、為替の世界でも、市場参加者の心理がリスク選好かリスク回避か、どちらに傾いているのかには、常に注意を払うことが重要になってきます。
これはFXテクニカル分析が重要である理由やFXのファンダメンタルズ分析のやり方・重要性で述べたように、他の投資家と同じ方向を向く、つまり市場のコンセンサスに従うことが、重要であるからに他なりません。
他の投資家の心理を理解する
多くの投資家は、高金利通貨に魅力を感じています。何故なら、FXにはスワップ金利という仕組みがあるからです。
できれば、誰もが円のような低金利通貨を売って、ユーロやポンド、あるいは豪ドルのような高金利通貨を購入し、スワップ金利を得たい、と考えています。あるいは南アフリカランドなど、より高金利の通貨への投資を考える人も少なくありません。
が、言うまでもなく、何故、その国の通貨が高金利かといえば、金利を高くしなければ、誰もその国にお金を貸そうとは思わないからで、つまり、経済的に見て、リスクが大きい国ほど、自国の通貨の金利を高くして、海外の投資家からの資金を呼び込もうとしているわけです。
経済的なリスクとは、その国の通貨がごみ屑になってしまうリスクのことです。
例えば、日本という国が破たんすれば、円という通貨は、紙切れ同然になってしまいます。100億円持っていようが、1兆円銀行に預けていようが、日本が破たんすれば、その瞬間から円という通貨には価値がなくなり、円資産しか持ち合わせあわせていない人は、一様に一文なしになっていまいます。
日本という国が破たんする、というと、まるでおとぎ話のように感じる人もいるかもしれませんが、実際、遅かれ早かれ、いずれ今の世界経済(資本主義体制)は、いつか破たんします(物事に永遠はありません)。
言い換えれば、日本も欧州もアメリカも含めて、今の世界はいつかは破滅し、それがいつ来るかはわからないわけです。
勿論、それがどの程度の確率で、またどれくらいの期間(10年後か100年後か1000年後)かは、全く予測はつきませんし、その後、世界がどうなるのかについても、今現在は想像すらできません。
ただ、そういったリスクは0ではないということだけは確かなわけです。
だから、何十億、何百億と資産を持っているようなお金持ちは、円だけでなく、米ドルやユーロなどの他国の通貨、あるいは不動産、株や金銀など、いろんな形で資産を保有しておこうとします。
ドルやユーロや不動産に資金を分散しておけば、万が一日本という国が滅びても、一文無しにはならずに済むからです。
というわけで、世界中のお金持ちは、資金をいろんなものに分散投資しているわけですが、どうせ投資するなら、リターン(利益)のできるだけ大きなものに投資したい、と考えるのが普通です。
高金利通貨=リスクが高い
FX投資なら、低金利通貨である円やドルを売って、高金利通貨であるユーロやポンド、オーストラリアドルなどを購入したい、と多くの人が考えています。前述したように、スワップ金利が期待できるからですね。
ただ、高金利通貨は、それだけ紙くずになるリスクも高いわけです。
日本と欧州、どちらが破たんの可能性が高いか、と問えば、多くの日本人は「そりゃ日本でしょ」と答えるかもしれません。
が、実は、海外の投資家は、日本の円を米ドル以上の「安全通貨」として評価しています。少なくともそういうイメージを日本という国は世界中の投資家から抱かれています。
そのため、世界経済の状態が思わしくない、と市場参加者が感じている時、つまり相場に「リスク発生中」のランプがともると、一気に投資家心理は「リスク回避」へ傾き、円が買われやすくなります。
というより、リスク選好の時には、多くの投資家が「円を売ってユーロやポンドを買っている」わけですから、トレンドが変わった、と感じれば、多くの投資家が一斉に利益確定の決済注文をします。
これがドル円やクロス円通貨が、下落の際に、一気にストンと落ちる仕組みに繋がっています。
世界は常にリスクにあふれている
前述したように、世界で最も破たんリスクの少ない国と評価されている日本ですら、その確率は0ではありません。
他の国に関しても同様です。
考えてみればわかりますが、世界は多くのリスクを抱えています。
戦争や、人口問題、食糧不足、大型台風や地震などの気象異常などがそれです。
世界中が多くのリスクを抱え、いつそれが爆発するか誰にもわからない。
しかし、人間は、そのことをすぐに忘れてしまいます(あるいは目をそらします)。
周囲に多くのリスクがあることを頭の中から消し去り、目先の利益を得たいと考える。それが人間という生き物です。
当然、投資家も人間ですから、時にリスクを忘れ、あるいは頭の隅に追いやり、リターンの大きな取引を目指します。
FXでは、高金利通貨の購入がまさにそれですね。
世界経済に対するネガティブなニュースが少なくなり、「リスク発生中」のランプが消えさると、投資家は、高金利通貨の購入を考え始めます。そして、恐る恐る少しづつ購入します。
リスク選好へと市場のコンセンサスが形成されていくわけです。
しかし、皆、高金利通貨=リスクが高い、ということは頭のすみっこのほうで理解しているので、購入するときは、コソ泥のように慎重にゆっくりと行動します。
この投資家心理が、クロス円やドル円などがじわじわとゆっくりと上昇する原因です。
そして、いざ、世界経済に関するネガティブなニュース(戦争や異常気象による被害など)が流れ、「リスク発生中」のランプが点滅しだすと、市場のコンセンサスがリスク選好からリスク回避へと一気に傾き、投資家は、我こそは、と先を争って、利益確定の売りをしはじます。
この時は、買いの時とは違って、はっきり言って、早い者勝ちです。それまでの上昇トレンドが長ければ長いほど、一気に相場は急落することになるので、ちょっとでも売りのタイミングを損ねると、利益どころか大損に繋がりかねません。
だから、皆、必死です。
また、実際、逃げ遅れた人のロスカット注文も合わさって、急落の勢いは、加速の一途をたどります。
結果、以下のようなじわじわドスン!の相場が形成されることになるわけです。
ちなみに、ドル円やクロス円だけでなく、ユーロドルやポンドドルも同じような「じわじわドスン」の傾向があるのは、ドルが円と同じように、安全資産だという認識を持たれているからです。
クロス円とドルストレートの値動きや性質の違いで述べたように、ドル円のレートがほとんど動かない理由は、リスク選好の時は、ドルも円も売られ、リスク回避の時には、ドルも円も買われやすいからです。